これまでのあらすじ
政治家としては民を思い、免税などを行った仁徳天皇ですが、女好きな一面も。
そのため仁徳天皇のことが大好きな皇后は嫉妬に苦しみます。
八田若郎女への恋
このように仁徳天皇は皇后、石之日売(イシノヒメ)と歌のやり取りをなさる一方で、
八田若郎女(ヤタノワカイラツメ)へも恋心を燃やし歌をお送りになります。
一本菅(ヒトモトスゲ)は
子持たず 立ちか荒れなむ
惜(アタ)ら菅原(スガハラ)
言(コト)をこそ
菅原と言はめ 惜ら清し女(メ)
現代語訳:
八田の一本菅たる貴女は、
子も持たないまま、
立ち枯れていくのでしょうか
勿体無い
言葉では菅原(綺麗な腹)というけれど
勿体無い
すがすがしい素敵な女性なのに
すると八田若郎女が答える歌に言うには、
一人居りとも
大君し
良しと聞こさば
一人居りとも
現代語訳:
八田の一本菅たる私は、
たとえ一人でも、
天皇のご寵愛さえ得られれば、
たとえ一人でも、いいのです
そして、八田若郎女の御名代(天皇・皇后・皇子・皇女の名を後世に伝えるために設置された部)として八田部を定めました。
速総別王と女鳥王
八田若郎女の妹、女鳥王にも求婚
仁徳天皇は弟の速総別王(ハヤブサワケノミコ)を仲人として送り、腹違いの妹の女鳥王(メドリノミコ 八田若郎女の同腹妹)にも求婚しました。
すると、女鳥王は速総別王にこうお答えしました。
天皇は八田若郎女をお迎えることもできませんでした。
だから、私はお仕えできません。
私はあなた(速総別王)の妻になりましょう。
こうして女鳥王と速総別王は結婚します。
仁徳天皇の系譜には女鳥王は仁徳天皇と結婚したことになっていました。
(参照:(143) 仁徳天皇 皇妃と皇子女)
そして、速総別王は天皇のもとに帰らず、報告もしませんでした。
🍃
天皇は事情を知るために自ら女鳥王の屋敷に出かけると、敷居の上に座りました。
その時、女鳥王は機織りで布を織っていました。
天皇はお聞きになりました。
天皇は、女鳥王の胸の内を知り、諦めて宮へ帰って行きました。
その後、速総別王が帰ってくると、なんと、女鳥王はこんな歌を詠みます。
速総別様、鷦鷯(サザキ 仁徳天皇)の命を奪いなさい
天に翔ける 高行くや
速総別(ハヤブサワケ)
鷦鷯(サザキ)取らさね
現代語訳:
ひばりさえ、天翔けます
ハヤブサなら
サザキ(スズメ)の命を
奪ってしまいなさい)
仁徳天皇は天皇になる前、
大雀命(オオサザキノミコト)と呼ばれていました。
🍃
天皇は人づてにこの歌を聞いて、
速総別王と女鳥王を成敗しに軍勢を向かわせます。
二人は逃げて、倉椅山(クラハシヤマ:奈良県桜井市の山)に登りました。
次に、宇陀(ウダ)の蘇邇(ソニ:奈良県宇陀郡曽爾村)に逃げた時に、天皇の軍勢に追い付かれて殺されてしまいました。
女鳥王の玉釧(たまくしろ)
二人を討った将軍、山部の大楯連(オオダテノムラジ)は、
女鳥王が手に巻いていた玉釧(たまくしろ:玉を付けた腕輪)を自分の妻に与えました。
ある日の宴会の時、山部の大楯連の妻も参内しました。
大后の石之日売命はその腕輪に見覚えがあり、女鳥王の腕輪とわかったのです。
すぐさま、大楯連の妻を下がらせました。
そして、大楯連を呼ぶとこう言い渡しました。
でも、その家来であったお前は、主君の腕輪をとり、妻に与えたのか!
こうして、大楯連は処刑されました。
石之日売が大楯連に激怒、処刑したのは、
・女鳥王に同情していたからとも
・主君のものを家来が取るのはけしからんという儒教的な考えからとも
言われています。
はるさん的補足 仁徳天皇が姉妹に拘った理由
応神天皇は宇遅能和紀郎子を後継者に指名
応神天皇にはたくさんの御子がいましたが、宇遅能和紀郎子を後継者に指名してました。
(参照:(134 )三皇子の分掌)
しかし宇遅能和紀郎子は亡くなってしまったので仁徳天皇が即位しました。
宇遅能和紀郎子、八田若郎女、女鳥王の母は応神天皇の大のお気に入りでしたから、
八田若郎女も女鳥王もとても美しかったのでしょう。
けれどもそれだけではなく、父(応神天皇)が決めた後継者を守れなかったことへの申し訳ない思いが仁徳天皇の中にあったのかも知れません。
また宇遅能和紀郎子が亡くなる時に、2人の妹のことを仁徳天皇にお願いしたのではないかという説もあります。
石之日売が嫉妬した理由
石之日売は元から嫉妬深い性格だったのかも知れません。
しかし、それに加えて石之日売が豪族出身(皇族ではない)の皇后だったことが影響しているのではないかと言われています。
つまり、(応神天皇の娘である) 八田若郎女に御子ができてしまうと、石之日売の生んだ御子が後継者になれなくなることを心配したのではないかとも考えられています。
ちなみに石之日売が亡くなると八田若郎女が立后しますが子がいなかったので、石之日売の生んだ御子たちが即位します。
八田若郎女に子が出来なかったことを、後世になって石之日売のせいにしたのかもしれません。
天地開闢からの記事
これまで書けている記事はこちらからご覧ください。
上巻(天地開闢から海幸彦山幸彦)
中巻(神武天皇から応神天皇)
下巻(仁徳天皇から推古天皇)