『古事記』於母陀流神・阿夜訶志古泥神(オモダル・アヤカシコネ) 完成や美貌の神
穏田神社(オンデンジンジャ・東京都)

前の記事 「オオトノヂノカミ・オオトノべノカミ

次の記事 「イザナギ

於母陀流神・阿夜訶志古泥神(オモダルノカミ・アヤカシコネノカミ) は『古事記』では神世七代に属する神です。

於母陀流神・阿夜訶志古泥神は「完成」「人体の神格化」「性器崇拝」の神とされています。

於母陀流神 (兄 男神)・阿夜訶志古泥神 (妹 女神)は一対で一代と数えられます。

「古事記」における於母陀流神・阿夜訶志古泥神(オモダルノカミ・アヤカシコネノカミ)

於母陀流神・阿夜訶志古泥神(オモダルノカミ・アヤカシコネノカミ) は神世七代の六段目に登場します。

於母陀流神・阿夜訶志古泥神(オモダルノカミ・アヤカシコネノカミ) は「古事記」では「天地の創世」という所に登場する神です。

「天地の創世」の全文の読み解きは
「古事記」における国之常立神 御岩神社に行ってきました 
をご参照ください。

まず出現!別天津神(コトアマツカミ)

「古事記」では天と地とが初めて分かれて開闢の時に、造化三神と呼ばれる天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)、次に高御産巣日神(タカミムスビノカミ)、次に神産巣日神(カミムスビノカミ)が高天原に現れ出て姿を消します。

その後宇摩志阿斯訶備比古遅神(ウマシアシカビヒコノカミ)天之常立神(アメノトコタチノカミ)が出現し姿を消します。

ここまでを別天津神と呼びます。

次に神世七代(カミヨナナヨ)! ここに於母陀 流神・阿夜訶志古泥神が登場します

別天津神の後に国之常立(クニノトコタチ)次に豊雲野神(トヨクモノノカミ)が出現します。

豊雲野神までは性別の無い独神で、出現してすぐに隠れてしまいます。

その後宇比地邇神・須比智邇神 (ウヒヂニ・スヒヂニ) という男女一対の泥や砂の神が登場しました。

宇比地邇神・須比智邇神 (ウヒヂニ・スヒヂニ) 以降は性別があり、「隠れた」という記述がなくなります。

そして角杙神・活杙神(ツノグイ・イクグイ) という生物が発成し育つことを表す神が、

次に意富斗能地神・大斗乃辨神(オオトノヂ・オオトノべ)という道や門の神々が登場しました。

そのあと、神世七代の6番目(伊邪那岐伊邪那美命 イザナミ・イザナミの前)に登場するのが於母陀流神・阿夜訶志古泥神です。

神世七代とは

神世七代天之常立神 (アメノトコタチ・別天津神の最後の神) までに成立させた「天の礎」の後に「国の礎」を成立させた神々と考えることができます。

意味する所は

(1)国土の形成を表すとする説

(2)地上の始まりを担う男女の神の身体(神体)の完成を表すとする説

(3)地上に於ける人類の生活の始原を表すとする説

などがあります。

「日本書紀」における「オモダル」「アヤカシコネ」

日本書紀ではオモダルノカミ

面足尊

アヤカシコネノカミ

綾惶根尊

と表しています。

於母陀流神・阿夜訶志古泥神(オモダルノカミ・アヤカシコネノカミ)とはどんな神か 3つの説を紹介します

於母陀流神・阿夜訶志古泥神をお名前から考える

於母陀流神(兄)

「於母」、、、面 (顔)

「陀流」、、、足る (たる)

と解して「顔つきが満ち足りた男子

阿夜訶志古泥神(妹)

「阿夜」、、、ああ! (感嘆詞)

「訶志古」、、畏し(カシコシ) の語幹 恐れ多いという意味

「泥」、、、、人につける親称

と解して「まあ、恐れ多い女子よ

と考えられます。

②「日本書紀」の表記から考える

・オモダル

「面」、、、(顔)

「足る」、、(成り整う)と解して

身体の完成を表す。

人体が完備することの神格化

・アヤカシコネ

「綾惶(アヤカシコ)」、、、「アヤニカシコシ」といった讃嘆の語

「根」、、、女性を表す接尾語 または親愛の意味の接尾語

女陰の神格化とする説

③神名は「オモダル」と「アヤカシコネ」の会話だった説

「オモダル」と「アヤカシコネ」は前に登場した宇比地邇神・須比智邇神 (ウヒヂニ・スヒヂニ) らのようなお名前の共通性がありません。

そこで

男神
なんて美しいのでしょう!
女神
まあ!なんて恐れ多いこと!

という会話がなされて、神名になったのではないか?という説もあります。

いずれにしても容姿や肉体が人間として完成されたことを表していると言えるでしょう。

信仰としての於母陀流神・阿夜訶志古泥神(オモダルノカミ・アヤカシコネノカミ)

第六天魔王 (葛飾北斎 画)

於母陀流神と阿夜訶志古泥神は神世七代の6番目に出現したことから、神仏習合の時代に仏教における第六天魔王と同一視されました。

第六天魔王とは

仏道修行を妨げる欲界の悪魔のことです。

第六天である他化自在天に魔王の住所があるとされています。

第六天魔王足利家に信仰されましたが、

織田信長が第六天魔王と名乗ったことが有名です。

第六天魔王は悪魔なのですが、その強大な力によって災いを除き、御利益を得ることができると信仰されていました。

今も関東地方以北には第六天(神)社が多くあります。

(西日本に第六天(神)社が無いのは豊臣秀吉が信長の痕跡を恐れて全て廃社にしたからという説もあります。)

その後、「朝廷が仏教に阿って(ヘツラッテ)、第六天魔王の約束を違えたから政権を奪ったのだ」という論理で江戸幕府を正当化する目的で静岡県より東に3000〜5000社の第六天社が建立されたと言われています。

その為、関東武士に信奉者が多かったとされます。

しかし、明治時代になり神仏分離になると、明治政府に第六天魔王は目の敵にされました。

そこで多くの第六天社は祭神を於母陀流神と阿夜訶志古泥神に変更しました。

今では「日本書紀」の表記「面足尊」から

・足病消除

・交通安全

・美容

・技術や芸の上達

の神として信仰されています。

隠田神社(オンデンジンジャ)

東京都渋谷区に隠田神社という神社があります。

もとは日蓮宗の寺で第六天社と呼ばれていましたが明治時代に廃寺となり近くにあった熊野神社を合祀し隠田神社として生まれ変わりました。

主祭神は於母陀流神・阿夜訶志古泥神櫛御食野神(クシミケヌノミコト・スサノオの別名)

技芸上達、美容を祈る人々に人気です。

ラブライブ!スーパースター

近年はラブライブというアニメの映画「ラブライブ!スーパースター」の聖地になったようでアニメファンも多く訪れているようです。

アニメファンの方々も於母陀流神・阿夜訶志古泥神のお名前を覚えてくれると嬉しいです!

前の記事 「オオトノヂノカミ・オオトノべノカミ

次の記事 「イザナギ

にほんブログ村

コメント一覧
  1. この度の神さまはお名前の表記からより人間界に近い神さまですね。
    時の権力者からも名乗られ崇められます程、近い存在でしたのでしょうか…
    また、第六天の魔王と名乗られました天下人の痕跡に恐れ其れに関わる寺院を廃寺に…
    人間の容姿に近い神さま、誰しも第六天の魔王となり得る神さま…
    具現化されました初めての神さまのように思えます。

    • ありがとうございます♪
      だんだん体型も人間に近くなり、会話ができるようになってきた進化を感じさせますね。
      第六天魔王のような存在って忌み嫌うものかと思いきや、名乗ったり信仰されたりするのですね。
      信長公以前にも後醍醐天皇なども名乗ったそうです。
      西洋でもルシファーなど悪魔が人気あるのですから、悪役は魅力的なんでしょうね。
      オモダルも6番目に出現したからという理由で悪魔と同一視されてしまいましたがおかげで第六天社として名を残せたのは良かったと思います。

  2. 於母蛇流神、阿夜詞志古泥神は、蛇とか夜とかの意味を考えないで、読みで考えると意味が伝わってきました。
    泥は、親しみの意味もあるのですね。
    日本書紀の方は、漢字からも想像がつきますね。
    会話説は、言われた方に付けたら、女神が美しく、男神がかしこく、ピッタリでしたのにね。由来はわからなくなるでしょうけど。
    第六天社と第六天魔王の物語面白かったです。魔王でも良いことをして信仰されていたのですね。
    第六天社の主祭神を変更させて、近くの神社を合祀したら、聖地になったのは神社にとって予想外の展開でしたでしょうね。

    • ありがとうございます♪
      私も会話説がしっくりくるのです。
      このお二方から会話ができるようになったと考えることもできますしね。
      日本は宗教色があまりしない国ではありますが神仏集合と廃仏毀釈によってお寺は痛手を負いました。
      最近も大きな土地を持っていたところは持ち堪えられなくなってますね。
      隠田神社さんは思いのほか人気の神社になりました。
      そのような棚ぼた?のようなこともありますね。

  3. こんばんは。たびたび言っているかもしれませんが造化三神や神世七代、
    どの神様がどこに居られたか、とか、よくごっちゃになってしまう自分です。
    今回のオモダルさん、音だけ聞くと重だる、重くてだるい、なんともなイメージですが
    やはり色々な解釈があったりするのですね。仏門にて修行の妨げとなるマーラとかの
    イメージの、そんな神様がこんな初期・上位に置かれている・考えられているのだとすれば、
    それはかなり興味深い事だなとも思いました。
    ともあれ、神世七代で伊耶那岐伊耶那美に並びながらいまいちメジャーじゃないシリーズ(←なんだか罰当たりな言い方ですが)の
    神様方のご紹介記事、今回も読み応えがあり本当に楽しかったです。
    ありがとうございます!

    • ありがとうございます♪
      おっしゃる通りいまいちメジャーでない神々なので祀る神社も少な目ですね。
      静岡以西は第天六社もないそうですし。
      でも古事記などの編纂者たちが、国や人の成り立ちをどのような順番に考えて創り上げていったかがわかり面白いです。
      神世七代の6番目に出現したからという理由で第六天魔王と同一視というのが日本人の鷹揚さを表しているように感じます。

コメントを残す

古事記の関連記事
おすすめの記事