べっ甲はウミガメの一種である玳瑁(タイマイ)の甲羅の背甲・腹甲・爪甲を何枚も重ね合わせ、水と熱だけで張り合わせた素材です。
日本での歴史も古く、小野妹子が隋から持ち帰りました。
べっ甲について
南方の海域やカリブ海、インド洋の海域に生息しているウミガメの一種である玳瑁(タイマイ)の半透明と黒褐色のまだらがある甲羅と爪、そして腹甲とを巧みに加工、細工し、各種の装飾用具として作られたものをべっ甲(鼈甲)細工と呼んでいます。
べっ甲の名前の由来
「べっ甲」の「べっ」は「すっぽん」のことです。
江戸時代までは「べっ甲」という名前ではなく「玳瑁(タイマイ)」と呼ばれていました。
しかし江戸幕府が奢侈(しゃし) 禁止令を発した際にタイマイのかんざし等も「贅沢品」として禁止されました。
それでもタイマイのかんざしを使いたいとして
「これは、タイマイの甲羅(コウラ) ではなく、鼈(スッポン) の甲羅だ。」
と偽称したのが始まりと言われています。
鼈甲(ベッコウ) の「鼈」の字は訓読みすると「すっぽん」と読みます。
べっ甲の歴史
中国ではこの玳瑁細工の工芸品が6世紀末頃にはすでに作られ、8世紀の唐時代になると盛んに制作されるようになりました。
唐の朝廷は玳瑁や珠玉などを組み合わせて各種の工芸品を作るのは贅沢品であるとして、しばしば禁令を下しています。
日本には604年に
「玳瑁杖(タイマイのツエ)」
「玳瑁如意(タイマイニョイ)」
「螺鈿紫檀五弦琵琶(ラデンシタンノゴゲンビワ)」
等が中国からもたらされ、東大寺正倉院の宝物庫に保存されています。
琵琶のバチうけがタイマイでできているそうです。
中国で産み出された技法が16世紀にポルトガルに入り、ポルトガル人の来日により長崎に伝えられ、
長崎を中心にタイマイ細工の技術が発達していきました。
亀は長寿の印でもあるのでめでたい品とされ、カンザシや櫛などが各地の大名に愛用されるようになりました。
しかし、高価なため庶民には手が届かなかったようです。
徳川家康公も愛用した「べっ甲のメガネ」は現在の価格で500〜600万円ほどしたとか。
江戸幕府は元禄時代 (1688年〜1704年) に「奢侈禁止令(江戸幕府が士農工商を問わずに発令した贅沢を禁じる法令及び命令)」によりタイマイ細工を禁止します。
しかし、ある藩主が婚礼に際し
「是非ともタイマイ製品が必要である」とし、幕府に対して
「タイマイは唐より渡来した高価品であるが、わが日本内地の亀の甲で作る品は差し支えないだろう」
と苦肉の上申を行い
「鼈甲(スッポンノコウ)で作る品ならば一向に差し支えなし」
と許可を得ました。
以来、タイマイであっても「べっ甲」と呼ばれるようになりました。
明治・大正時代にはアメリカ・イギリス・ロシアなどの商船や軍艦が日本に出入りします。
べっ甲職人たちは外国人が好むデザインを作るようになりました。
昭和に入るとべっ甲は日本の特産品としてメガネ、かんざし類の和装品、ネックレスやペンダントなどのアクセサリー、置物などが全国的に流通しました。
しかしタイマイ保護の観点から
1994年のワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)により、全ての国際取引が禁止されるようになりました。
日本では1994年以前に国内に持ち込まれた在庫のべっ甲を用いた加工・製造と取引が、合法的に行なわれています。
また、タイマイの養殖も行われて始め、べっ甲細工の原料として安定確保を目指しています。
養殖タイマイはコストの面でまだまだ課題があるようですが日本伝統工芸品であるべっ甲細工を継承できそうですね。
養殖タイマイの
肉は食肉用として輸出
皮か革製品として加工
甲羅はべっ甲に
余すことなく使い切り「命をいただく」気持ちを忘れずに大切に使われているそうです。
べっ甲の成分
べっ甲の成分の大半はタンパク質です。
そしてニカワという成分が含まれているので水と熱の圧縮のみで甲羅がくっつきます。
タイマイの甲羅の背甲・腹甲・爪甲を重ね合わせ一定の厚みにして加工されます。
べっ甲は天然のタンパク質なので、人の体温によって微妙に変形する性質があります。
たとえば眼鏡フレームの場合、鼻当て部分が掛けた人の形にフィットし、汗に濡れてもずり落ちにくいという特性があるため、高価で手入れも大変ですが今も人気の素材となっています。
べっ甲の色
黄色、茶色、黒
西洋では茶色いべっ甲が人気だそうです。
英語ではtortoiseshellといいます。
べっ甲の硬度
モース硬度 2.5
爪と同じ硬度です。丁寧に扱いましょう。
💎参考記事
べっ甲の劈開
割れやすい性質です
特に乾燥してしまうと割れやすくなります
べっ甲の光沢
樹脂光沢
💎参考記事
べっ甲の扱い方
べっ甲の素材はタンパク質ですから、一年くらい使わないでしまっておくと、虫に食べられてしまうことがあります!
桐箱にナフタリンを入れてしまい半年に一度くらい空気に当てましょう。
眼鏡のように毎日使用するものは、就寝前に柔らかい布で拭くと長持ちします。
乾燥にも弱いですが汗などの水分にも弱いので濡れたらすぐに拭きましょう。
べっ甲の石言葉
・未来
・予知
・生命力
・長寿
・深淵
べっ甲 誕生日石
べっ甲は
9/4と11/9
の誕生日石です。
💎参考記事
はるさん的補足 大嘗祭
大嘗祭(ダイジョウサイ)とは、新しく天皇が即位したあと最初に執り行う新嘗祭のことです。
大嘗祭の日程は正式には定められていませんが、例年11月に行われています。
大嘗祭で使われるお米は、斎田点定(サイデンテンテイ)と呼ばれる儀式から選ばれます。
この儀式では、亀卜(キボク)と呼ばれるアオウミガメの甲羅を使った占いでお米の産地が決まります。(占い方法は非公開)
しかしワシントン条約でアオウミガメの商取引は制限されてしまいました。
令和の大嘗祭では小笠原村で東京都知事の許可を得て保護・増殖されていたカメの甲羅を宮内庁が購入した物を使いましたが
次回以降はどうするか。
アオウミガメの甲羅確保の苦労が続きそうです。