鉱物からつくる岩絵具 (顔料)  どんな鉱物が絵具として使えるか
顔料となる鉱物

石器時代から現在まで、鉱物から顔料が作られています。

鉱物の顔料を使った有名な絵といえばフェルメールの「真珠の耳飾りの少女」や尾形光琳の「燕子花図」でしょうか。

しかし、紀元前から鉱物顔料は使われていました。

この記事では岩絵具として使われてきた鉱物をまとめていきたいと思います。

燕子花図

岩絵具とは

岩絵具とは主に鉱石を砕いてつくられた粒子状の絵具で、絵画、彫刻、工芸、建築に用いられる伝統的な顔料です。

「絵の具」という物がなかった時代に何とかして絵や食器に色を着けたいという発想からさまざまな植物や鉱物を使って人類は色を作り出して来ました。

鉱物顔料自体には接着する性質がないので

日本画の場合は 顔料➕ (ニカワ) で

油彩画の場合は 顔料➕アマニ油で

岩絵具を作っていました。

はる
日本画の岩絵具作成方法は混色ができないという特徴があります。

日本画だけでも原料鉱物は約40種あったと言われています。

混色ができないため、鉱物を約10段階に粉砕して400〜500色の色を作っていました。

そのため、粒子の大きさが違いザラザラした質感になります。

岩絵具に使われている主な鉱物

岩絵具に使われている主な鉱物には以下の物です。

自然の鉱物であるため、不純物が混入したり、色調が若干異なったりすることもあります。

ラピスラズリ

ウルトラマリン

深い青色でフェルメールを始め、多くの画家にとって憧れの絵の具でした。

パイライトが内包されていることも多いので、青色の中に金色が混ざります。

💎参考記事

ラピスラズリから作る「ウルトラマリン」

クリソコラ (珪孔雀石)

テンダーグリーン

古くはローマの皇帝ネロが戦車の競技場に撒く粉としてクリソコラを砕いた物を使ったと言われています。

顔料としてはルネサンスの画家に愛されました。

💎参考記事

【クリソコラ】とクリソコラにクォーツが浸透した【ジェムシリカ】

カイアナイト (藍晶石)

幻想的な青色

粉末にすると真っ白になってしまいますが、ビヒクルと混ぜると幻想的な青色になります。

💎参考記事

『クリスタルタロット』ワンドのナイト カイアナイト (藍晶石)

ビヒクルとは

印刷インキ、塗料、絵具など着色剤の主成分の一つで顔料などの色剤を展(ノ)べる材料です。

シナバー (辰砂)

朱色、バーミリオン

鳥居などに使われる、最も古い赤色です。

💎参考記事

【シナバー】朱色・ 水銀・金メッキ・不老不死・賢者の石・毒あり

鶏冠石 (リアルガー)

オレンジ色

脆い鉱物なので粉にしやすいですが日に当たると変色してしまうことがあります。

💎参考記事

『鶏冠石』(リアルガー) 毒にも薬にも顔料にも使われてきた鉱物

雄黄 (石黄・オーピメント)

金色・レモン色

軟らかくて粉にしやすく、粉の大きさによって金色や薄いレモン色になります。

💎参考記事

『雄黄(石黄)』「オーピメント」黄色や金色の顔料として使われていた鉱物

グラファイト(石墨)・炭

黒は鉱物であればグラファイト

動物の骨を炭化して使った物もあります。

グラファイト炭素の結晶で柔らかい鉱物です。

鉛筆の芯にも使われています。

ヘマタイト (赤鉄鉱)

黒い線・赤

外見は黒っぽい (錆びた鉄状) ので、黒い線を引くなどに使われていました。

粉末にすると赤くなり、赤の顔料となります。

右の写真はに三内丸山遺跡 (縄文時代)で発見された顔料として使われていたヘマタイトです。
日本でも紀元前3000年から顔料が使われていたことがわかりました!

💎参考記事

『クリスタルタロット』「ソードの5 」・ヘマタイト (赤鉄鉱)

高師小僧 (リモナイト)

黄土色

高師小僧は水を含む鉄錆の一種です。

粉末にすると黄土色になります。

💎参考記事

『高師小僧』古代は製鉄にも使われていた可愛い形の「褐鉄鉱」

マラカイト

マウンテングリーン

クレオパトラがアイシャドウに使ったのはマラカイトの粉末だったと言われています。

💎参考記事

『クリスタルタロット』・「カップのクイーン」マラカイト孔雀石

アズライト

岩群青

裏から光をあてると濃い青色に透き通り宝石のような感じが出る顔料です。

ただし、湿気の多いところに置いておくと緑色に変色してしまうことがあります。

💎参考記事

『クリスタルタロット』ワンドの3 アズライト 藍銅鉱(ランドウコウ)

方解石や胡粉

方解石や胡粉は白色というより透明に近いのですが、光の当たり方によって白く見せることができます。

胡粉は絵画の面を盛り上げたり、絵の下塗りにも使われていました。

胡粉はハマグリや牡蠣などの貝殻を粉砕して作られる(有機)鉱物顔料です。

💎参考記事

『クリスタルタロット』・「カップ5」カルサイト (方解石)

紫石 (パープライト)

紫色

紫石自体が希少なため、天然の岩絵具はとても高価になります。

💎参考記事

『パープライト』[紫石] 紫色の顔料としても使われる希少な鉱物

鉱物から作る岩絵の具の特徴

フランスのラスコー地方やアルタミラ地方の洞窟からは、顔料で描かれた馬や羊、野牛などの壁画が発見されました。

これらの壁画は、少なくとも1万5000年以上前に描かれたと判明しています。

これらは赤土や黒土を動物の脂などと混ぜて色を作っていますが、人間は次々に色材を探求しました。

そこで植物や鉱物から色を作りだします。

天然鉱物から作る顔料は

・野ざらしの環境でも変色しにくく、耐光性、耐熱性に優れている

・粒子は硬く、粗くて、着色力も限られていることから、何度も重ねて塗らないと十分な発色が得られないという欠点がある

・天然の物なので採れる量に限りがある (高価になる)

・毒を含む物がある

という特徴があります。

18世紀になって工業的に合成顔料を作られるようになると天然鉱物から作られる岩絵具が使われることは減って来ました。

合成顔料は

・安価で大量に供給できる

・発色が鮮やか

・着色力が強く色が豊富にある

・人体に無害

という特徴があります。

今も天然岩絵の具を好む画家もいらっしゃいますが、多くの画家は合成顔料をお使いになってます。

岩絵具になる鉱物の特徴

岩絵具として使うにはまず鉱物を砕いて粉末にしなくてはいけません。

多く岩絵具は「自色」の鉱物から作られる

鉱物には色のついた物はいっぱいありますが、多くの色石は(下の写真のように)粉末にすると白くなってしまいます。

このままでは紫色の顔料にはなりません。

このように白くなってしまうのは、鉱物の色の原因になる元素が、結晶を構成する主要な元素ではなく、 不純物として存在するからです。

そのような鉱物を「他色」といい、多くの場合は岩絵具にはなりません。

多くの岩絵具は自色の鉱物を砕いて作られています。

💎参考記事

[自色]の宝石と[他色]の宝石〜『色の原因となる元素』は構成している主要な元素か

粉砕しやすい鉱物であること

岩絵具は今でこそ絵の具の状態で売られていますが、昔は画家や芸術家が自ら岩を砕く必要がありました。

ですから硬度の低い鉱物でないと大変だったはずです。

発色が鮮やかであること

岩絵具は紙や壁に乗りにくく、繰り返し塗る必要がありました。

自色の宝石であってもペリドットは色が薄いため、あまり岩絵具に使われなかったようです。

はる
ペリドットは化粧品には使われていました。

💎参考記事

クリスタルタロット 隠者 ペリドット

最後に

岩絵具を使用しているスクロヴェーニ礼拝堂

上記のような条件を満たすものとなると、金属鉱物や硫化鉱物が多くなります。

シナバー、鶏冠石、雄黄は有毒物質です。

マラカイトアズライトクリソコラも成分がロクショウですから、口に入れたら危険です。

今は安全性を考慮したつくりになっていますが、歴史上は多くの芸術家や職人たちが命を落としたかもしれませんね。

今も美しい光沢やザラザラ感の魅力から、岩絵具をお使いになる方がいらっしゃいます。

安全に気をつけながら、伝統も継承していっていただきたいと思います。



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コメント一覧
  1. 今回の岩絵具の説明にルネサンス画を例えとされましたことはとても理解し易いです。
    ルネサンス画は凡そ800年も前の絵画ですね
    その画材として用いられました顔料は多少、色褪せてはいるものの今も健在です。
    当時は高価なウルトラマリンの天然鉱物を主に様々な油を混ぜ合わせ色彩表現を豊かにされましたのかを考えますと発明に近いと思います。
    その中に方解石の石灰を抽出し白色の顔料を作られましたのは以後の絵画に多大なる影響を齎されたのでは…と思います。

    • ありがとうございます♪
      私も今回初めて知ったのですが、日本画の顔料は色を混ぜられないのですね。
      鉱物顔料は昔からあったとはいえルネサンス時代に芸術まで引き上げられたようです。
      ウルトラマリンは一番人気ですが、本当に発明だと思います。
      ラピスラズリは多くの石の固有体ですが、その中に含まれるソーダライトなどは単体では顔料になれません。
      方解石を使えたのは大きな発見ですね!
      ありふれた鉱物ですし、砕きやすいし、毒もない。
      控えめだけどキラキラしている。
      理想的な顔料といえますね。

  2. 鉱物からの顔料の作り方について、とても丁寧に系統だって解説してくださり、ありがとうございました。
    日本画は混色出来ないので10段階ということは、大きさで、色が違ってくるということでよろしいでしょうか?
    変色しにくいものの、変色するのは、水でアズライト、酸と光で鶏冠石、紫外線でパープライトの3つかしら。
    アマニ油は、高級な食用油だと思っていましたが、接着剤としても使われていたのですね。

    • ありがとうございます♪
      10段階については、私はよくわからないのですがすり潰した粉などの大きさや膠との割合によって、濃淡がつくように想像します。
      何度も重ね塗りをすることでも変わるのでしょうね。
      この記事に載せたものだと変色するのはそうですね。
      私もアマニ油でくっつくの?と思いましたが、今も使われているそうです。
      食用はサラサラしているのですが、画材用は少し違うかもしれませんね。
      ともあれ、アマニ油などを使うせいか、貧乏な画家は絵の具を舐めて飢えを凌いでいたそうです。

  3. カイアナイトとラピスラズリの岩絵具の色素敵ですね〜とてもエネルギーがある絵になりますね〜いつもはるさんありがとうございます

    • ありがとうございます♪
      そうなんです!
      エネルギー溢れる絵になります。
      ワンポイントで使うのも素敵ですね!

  4. とても興味深いお話でした(^_^)今でこそ極彩色の絵や写真は当たり前ですが、昔は何かに色をつけるというのは壺や置物やら建物、絵などでも大変だったわけですね。。しかも石を砕いて膠や油で定着させる、と。おまけにその石に毒性があったりもで(x_x;)
    これだけの記事本当にお疲れ様でした。各色のところが長すぎず、詳細やさらに知りたいことはリンクから飛べるようになっているのも本当に素晴らしいと思います。
    混色ができないといったことは初めて知りましたが、これは地味に・・いやかなり?不便な特性でもありますね。

    • ありがとうございます♪
      私も日本画(膠)は混色できないということを初めて知りました。
      紫色が手に入りにくいなら辰砂とラピスを混ぜて、、、など思っておりました(笑)
      昔の絵師は苦労したでしょうね。

      記事が長くなると、Google的にはいいみたいなんですが、読んでくれる方が疲れて下の方まで読まなくなってしまうようなので、気をつけるようになりました。
      褒めていただけてうれしいです!

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