『高師小僧』古代は製鉄にも使われていた可愛い形の「褐鉄鉱」
高師小僧

高師小僧というのは流通名で、鉱物名は褐鉄鉱 (リモナイト)です。

高師小僧というのは土のなかで生成される筒状や樹枝状褐鉄鉱(リモナイト)の固まりです。

愛知県高師村(現在の豊橋市)の高師原台地で採れる物が有名です。

高師小僧について

愛知県豊橋市の高師原台地

高師小僧の名前の由来

1895年(明治28年)地球科学者の小藤文次郎が愛知県高師村(現在の豊橋市)で採集した標本を「高師小僧」として論文で報告しました。

地方名が学術語になる形で、その後次第に定着したと考えられています。

高師原の土が雨で流された後に露出している様子が、幼児や動物に似ていることから「小僧」と付けられたといわれています。

豊橋市の高師原だけではなく、同じような条件を持つ土地であれば全国各地で出土していますが、どこで出土しても名前は「高師小僧」となります。

はる
名前に「小僧」と付けられた石は他に津軽小僧(珪乳石)があります。

海外ではそのまま 「loess doll」黄土の人形と言われます。

高師小僧が出来る条件

地層中で地下水中の鉄分が、土壌または粘土中の植物の茎や根などの周りに集まった後、茎や根が腐ってなくなり、管状・樹枝状となると言われています。

湿地帯の泥質な堆積物の中で生成することが多く、形成のメカニズムには、

鉄イオンの沈殿による無機説

鉄バクテリアがかかわる有機説

などが提唱されていて、まだわかっていません。

高師小僧の成分

高師小僧は錆びた鉄ですから成分は酸化鉄

化学式は

FeO(OH)・nH2

と表されます。

高師小僧の硬度

モース硬度は1に近く、とても脆いです。

💎参考記事 

石の硬度を表す「モース硬度」

高師小僧の光沢

土状光沢 

光がほとんど吸収され、光沢が極めて乏しいということです。

鉱物や金属の7つの光沢には属さない光沢です。

💎参考記事 

金属や石の印象を左右する7つの「光沢」

高師小僧の用途

高師小僧

製鉄にはあまり向かない

高師小僧は鉄の含有率が3割ほどと低いので製鉄には向きません。

第二次世界大戦中、鉄不足になった折、鉄の製造を試みたそうですが利用にはいたりませんでした。

ただし、高師小僧が多く出土する所からは必ずと言っていいほど遺跡から「鉄器」が出土しています

大量の鉄は生産できないものの、高師小僧が集落の発展に寄与していたと考えられます。

赤い顔料として使われていました

遺跡から出土する赤色顔料は主に水銀朱(シナバーから作る物)とベンガラがあります。

ベンガラは土壌や水分中に生息する「鉄バクテリア」が水に含まれる鉄イオンを酸化させることによって生じる鉄酸化物を焼成して生成されます。

ですから遺跡から出土する赤色顔料に高師小僧が使われていた可能性は大きいですね。

今でも岩絵具を愛用される方の中には高師小僧を顔料として使用される方もいらっしゃるようです。

高師小僧(リモナイト)の石言葉

・直感力

・願望達成

・財運

・健康

高師小僧(リモナイト) 誕生日石

現在の誕生日石には選ばれていません。


💎参考記事 

12ヶ月の誕生石と366日の誕生日石

リモナイトはメノウの中に入ることも

ファイアーアゲート(炎瑪瑙)

高師小僧を含むリモナイトは脆いのでそれだけではアクセサリーに向きません。

しかし、インクルージョンとしてメノウなどに含まれることがあります。

メノウに内包されるとファイアーアゲート(炎瑪瑙)と呼ばれとても美しい宝石になります。

高師小僧の主な産地

・愛知県豊橋市高師原

・北海道名寄市

・滋賀県日野町

・三重県志摩市

などからも産出されています。

はるさん的補足 古代における鉄作りと枕詞

日本列島は火山噴火による砂鉄(磁鉄鉱)が多いので砂鉄から鉄が作られることが多いです。

まず炉の中に木炭と砂鉄を交互に入れ、火をつけて密封し炉内を高温にします。

そして、ふいご(吹子、鞴)を使って炉の内部に風を送り込み、温度をより高くして酸化還元のスピードを早めます。

木炭に酸化鉄の酸素を化合させて鉄を作り出すのです。

高師小僧の場合品質が砂鉄より劣りますが砂鉄よりも低い温度(900°)で還元できるというメリットがあります。

高師小僧からはヤジリなどが作られていたようです。

枕詞「あしびきの」は製鉄から誕生

日本は「葦原中国(アシハラノナカツクニ)」という国名だったことからもわかるように葦が多く生えていました。

高師小僧から鉄を作るためには大量の葦を引く抜き山積みにし、乾燥させてから火を付けます。

そうすると葦は灰になり、茎や根についていた鉄分が残されその鉄分の塊りを取り鉄を作っていました。

このように、水辺の葦などを引き抜いて山積みにしていたことから、「山」の枕詞は「あしびきの」になりましたという説があります。

百人一首の柿本人麻呂の和歌でもお馴染みですね!

あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の 長々し夜を ひとりかも寝む

柿本人麻呂

 
       


 

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コメント一覧
  1. この度は鉱石、古代日本、百人一首そして鉄の製造までの繋がりをお勉強させて頂きました
    高師小僧の所以は実に日本らしい名前の付け方ですね
    当鉱石は此れまでの鉱石とは相違し微生物も関わります生物学的な生成にて不思議です
    故にモース硬度も繊維を含む様な1なのですね。
    当鉱石はインクルージョンとして含まれる瑪瑙に生まれ変わり価値も価格として表現されるのでしょうか
    補足の“あしびきの”はとても理解し易いお話しでした。

    • ありがとうございます♪
      明治時代は小僧という名称が「可愛い物」だったんでしょうね。
      今だと乱暴な言葉に聞こえますけど、、、。
      葦などの周りに褐鉄鉱が付いて、そこから鉄を作った先祖たちって素晴らしいですね。
      ヤジリであっても鉄製品ならよく切れたことでしょう。
      あしびきの〜で山と繋がるくらいたくさんの葦を引いて山にして乾燥させて、、、
      生活を楽にしようとする人間の知恵に驚嘆します。
      ファイアアゲートはそれほど高価な宝石ではないですが、褐鉄鉱が水晶質の中に入ればアクセサリーにできる、とか金属独特の力強さを感じるという意味で人気があるのでしょうね。

  2. 鉱物の鉄から葦まで繋がるとはいつもながら深い知識に驚きました。楽しく読ませていただきました。

    • ありがとうございます♪
      古代史に直接関わりがある鉱物は見た目は美しくなくてもロマンを感じます!

  3. 褐鉄鉱は出土してから、錆びて、色や形が変わることはないですか?
    土状光沢、光沢の知識が増えました!
    褐鉄鉱はファイアーアゲートの内包物になると、とてもきれい。
    ファイアーオパールのおさらいもできました。こちらは、ケイ素とすき間の水でゆらゆら光るのですね。
    日本では、褐鉄鉱は採れて、ファイアーアゲートになると、採れなくなるのですね。

    • ありがとうございます♪
      高師小僧の生成過程は不明な点も多いようなのですが、日本には鉄鉱石のような岩石はほぼないので鉄バクテリアの代謝生物である酸化鉄(ベンガラという)であるとすると
      高師小僧はバクテリアが鉄イオンと反応してできた水酸化鉄ですから、最初から褐鉄鉱(つまり錆びていた)だったのではないでしょうか。
      古事記ブログをやっている私がいうのもなんですが、日本は地殻変動により比較的新しくできた国(約7億年前)です。
      鉄鉱石は古い地層の縞状鉄鉱層から産出されますが日本にはありません。
      そのため鉄鉱石も釜石などに少しあるだけで古くから朝鮮半島などから輸入したり、たたら製鉄なども砂鉄などに頼ってす。(ヤマタノオロチは砂鉄の話しと言われますね)
      話しが逸れましたがオパールは日本では殆ど取れません。
      クリアーな水晶の黄色くなったところなどは鉄による物もあるようですが、ファイアーオパールとして宝石扱いされるほど美しくないようです。

  4. リモナイトが高師小僧という名になるとは、面白いですね〜形状からきな粉をまぶした芋飴の様にも見え、見た目もとても脆そうです。全国各地で出土し、昔から身近な褐鉄鉱。和歌の枕詞「あしびきの」が製鉄と関連してた話も、興味深く読ませていただきました。

    • ありがとうございます♪
      小僧って今はあまりいい言葉ではないように思いますが、明治の頃は愛ある呼び名だったのでしょうね。
      ネーミングセンス抜群です。
      ヤジリを作っていたとのことですが、酸化鉄からの鉄生成を考えると莫大な葦が必要だったと考えられますから山積みの葦が沢山あったのでしょう。
      目に浮かべると枕詞もしっくりくるような気がしました。

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