これまでのあらすじ
第21代 雄略天皇が即位しました。
「古事記」には雄略天皇のエピソードが幾つか載っており、
前回は皇后となった若日下部王(ワカクサカベノミコ)に求婚しに行くお話しでした。
引田部赤猪子
またある日、雄略天皇が三輪の美和河(ミワガワ 初瀬川が平野部を下って三輪山に接して流れる辺り) で遊んでいた時に
その川のほとりで洗濯をしてた少女がいました。
その少女の姿が非常に麗しかったので、
雄略天皇はその少女に
と尋ねました。
その少女は
引田部赤猪子(ヒキタノアカイコ) です
と答えました。
そこで、雄略天皇は
何処へも嫁に行くではないぞ!
まもなく宮に召し入れるからな。
と言いました。
赤猪子は、その言葉を信じて
雄略天皇が嫁に迎えに来てくれるのを待っていましたが、
待っても待っても迎えに来ることはなく
とうとう80年 (とても長い間 ) 経ってしまいました。
そこで赤猪子は
早くも多くの年月が経ってしまったわ。
自分は痩せ衰えてしまい、自慢の容姿も衰えてしまった。
でも、待ち続けて今に至ってしまった私の気持ちを、
天皇に洗いざらい打ち明けてお見せしたいわ!
そうでないと、心の憂さにたえられない!!
と思い、
沢山の献上品を従者に持たせて、雄略天皇の元を訪ねました。
ところが雄略天皇は、昔の約束などすっかり忘れており
赤猪子に向かって言いました。
なんで私の元を訪ねて来たのだ。
陛下が私に
『わしが嫁に迎えに来るから待っておれ』
と仰って下さいました。
私は、いつかいつかと心待ちに待っていました。
しかし待てど暮らせどお迎えはなく
とうとう80年も経ってしまいました。
今ではもう容貌も衰えてしまい
『陛下のお嫁さんにしていただきたい』
とは思ってもおりません。
でも、せめてこの気持ちだけでも知っていただきたいと思い、参上いたしました。
それを聞いて雄略天皇はたいそう驚いて
なのにお前は私の迎えをひたすらに待っていて
若くて一番良い時を過ごしていたとは
愛おしく悲しい。
そう言って一旦は赤猪子を妻に迎えようと思いましたが、
すっかり老いた赤猪子との結婚は不可能だと思い、歌を贈りました。
その樫の木の元に恐れ多くも貴い樫原乙女🍃
(神聖過ぎて触れられなかったよ)
🪴
🍃引田の栗の林の中に若い木が生えている
その若い木のように若い頃であったなら一緒に寝ておきたかった
こんなに老いてしまっているとは🍃
雄略天皇が「老いた」と言ったのは
・雄略天皇と赤猪子が共に老いてしまった
という意味だったとする解釈と
・赤猪子だけが老いてしまった!
(ご自分のことは棚に上げ、赤猪子に「老けたなあ」と言っている )
という2通りの解釈があります。
この歌を聞いて、赤猪子は着ていた着物の裾が濡れるほどに大泣きしました。
そして雄略天皇のお歌に答えて歌を歌いました。
その玉垣を造るために準備した石が余ってしまったかのように
私の身も用無きものかのように この歳になってしまいました🍃
(もはや私は陛下からも、他の人からも必要とされない人間になってしまいました。)
🪴
🍃日下の港に蓮の花が咲いています。
その花の盛りのように今を盛りと遊いでいる乙女達
私にもあんな頃があったと羨ましく思います🍃
( 日下というのは、皇后となった若日下部王がいらした場所です。
自分も美しかった頃もあったのに。
今、美しい
若日下部王が羨ましい。)
雄略天皇は赤猪子に多くのみやげ物を持たせ、お国へと帰しました。
赤猪子を愛おしく思った雄略天皇は、せめてものお詫びにと、
欲しいものを全て選ばせ、
家臣の中で一番の美男に運ばせたという伝承もあります。
この4首の歌は 志都歌(シズウタ) といいます。
はるさん的補足 引田赤猪子について
引田赤猪子について「古事記」にはこれ以上の記述はありません。
80年というのは長い年月という意味でしょうから、
老女といっても、せいぜい40歳位だったかもしれません。
想像ですが、、、
① これまでに赤猪子は多くの男性から求婚された。
② しかし、雄略天皇のお言葉を信じて
(または、他の人と結婚したら罰せられると思って)
嫁に行かなかった。
③ 雄略天皇の元を自ら訪れて、自分の状況をはっきりさせた。
④ 財産と美男を与えられて国に返された。
という流れだったのではないでしょうか。
赤猪子は雄略天皇を訪ねて行ける、しっかりした女性です。
これまでの人生は気の毒でしたが、雄略天皇の妻の1人にされていたより
この後、赤猪子は幸せな人生を送れたようにも思えます。
🍃
現在の桜井市初瀬付近 (雄略天皇の宮の近く) に引田部という部民が住んでいたようです。
そしてその付近には猪が多かったようなので、
「引田部赤猪子」というお名前の女性は実在した可能性があります。
古事記の他の記事
古事記の他の記事はこちらからご覧ください。
上巻(天地開闢から海幸彦山幸彦)
中巻(神武天皇から応神天皇)
下巻(仁徳天皇から推古天皇)