輝安鉱(キアンコウ)はかつて愛媛県の市之川鉱山で1メートルを越す大型で日本刀を思わせる美しい結晶が採れたことで知られる鉱物です。
外国など、市之川鉱山以外の産地の物は小さな物が多く、大きな物は希少です。
明治時代に大型のものの多くは海外に流出しスミソニアン博物館や大英博物館に展示されています。
美しい物は置物として鑑賞されますが、毒があります。
また、輝安鉱はレアメタルの1つであるアンチモン(Sb)の最も重要な鉱物です。
アンチモンとは
半金属元素です。
昔は Stibi と呼ばれていたため元素記号はSb
アンチモンは中世の錬金術師にとっては特別の興味をもって取り扱われてきました。
司祭(モンク)が錬金術をしていることが多かった中世に、この鉱物を使って多くのモンクが亡くなったことからアンチモンと命名されたという説もあります。
輝安鉱(スティブナイト)について
輝安鉱(スティブナイト)の名前の由来
輝安鉱の名前の確実な由来はわかりませんが
「安」はアンチモンのアンではないかと言われています。
「アンチモンが入った輝ける鉱石」といったところでしょうか?
スティブナイトの名前の由来は
主成分であるアンチモンがラテン語で「stibium」ということに由来します。
輝安鉱の成分
輝安鉱はアンチモンの主要鉱石で
成分は硫黄とアンチモンです。
化学式は
Sb2S3
と表されます。
輝安鉱の硬度
モース硬度 2
見た目は日本刀に似ているのに石膏と同じ柔らかさです。
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輝安鉱の劈開
完全 (スパっと割れやすい)
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鉱物の割れ方「劈開」ダイヤモンドは傷がつきにくいけれど割れやすい?
輝安鉱の光沢
金属光沢
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輝安鉱(スティブナイト)の毒性
鉱物には毒性を持つ物があります。
タイガーアイなどに含まれる石綿や辰砂(水銀や朱漆の原料)にも毒が含まれていますが輝安鉱(スティブナイト)にも毒性があります。
輝安鉱に触れたり、そばに飾っておくと、胃のせん痛や皮膚炎、気管支炎、脱毛、皮膚の乾燥、鬱血などを起こすことがあります。
ヒトのアンチモンの経口致死量は200mg〜2gと言われています。
輝安鉱は銀に似ている上に融点も低く、加工しやすいことから豪華な食器の飾りに使われてきました。
しかし成分の硫化アンチモンは有毒なので食中毒を起こし命を落とす人や、触れて(手を洗わなかった)亡くなった人もいたそうです。
輝安鉱を鑑賞用として飾る時はケースに入れましょう。
触ったら、手をよく洗いましょう。
輝安鉱(スティブナイト)の用途
輝安鉱は現在
鉛電池、マッチや花火、銃用雷管、メッキの製造に用いられます。
輝安鉱(スティブナイト)は水晶の中に含まれていることも!
輝安鉱(スティブナイト)は水晶内に含まれていることがあります。
「スティブナイトinクオーツ」として、石屋さんで見ることができるでしょう。
輝安鉱(スティブナイト)には毒性があるため、直接触るのは危険ですが水晶に入っていれば安心して身に付けることができます。
正倉院にもある輝安鉱(スティブナイト)
愛媛県西条市にある市之川鉱山(今は廃坑)は日本が世界に誇る美しい輝安鉱の鉱物標本を産出しました。
市之川鉱山の歴史は古く、『続日本紀(ショクニホンギ)』の文武天皇2(698)年7月の記事に「伊予国、白ろう(ビャクロウ)とスズを献る」という記載があります。
白ろうとはアンチモンのことです。
また、東大寺の盧舎那仏の鋳造で使われたスズの一部は、市ノ川鉱山のアンチモンではないかといわれています。
アンチモンはスズや銅と混ぜることでで鋳造・加工のしやすい合金をつくることができるので、かつては印刷の時に使う活字をつくるための重要な鉱物でした。
奈良時代に作られた海獣葡萄鏡や富本銭にもアンチモンが含まれていることがわかりました。
奈良時代には銅に白ろう(アンチモン)を混ぜて鋳造すると、光沢や硬度が増すことがわかっていたのでしょう。
アンチモンのインゴッド(溶かして鋳型に流して固めた物)は正倉院にも収納されています。
ただ、輝安鉱の美術品としての価値に気が付かず、明治時代に海外に流出してしまったのは残念ですね。
輝安鉱(スティブナイト)の石言葉
・柔軟性
・目標達成
輝安鉱(スティブナイト) 誕生日石
下の写真は豊橋にある自然史博物館に展示されていた50センチはある大きな輝安鉱です。ケースに反射して私の手とスマホが映ってしまっていますが、ご了承下さい。
輝安鉱は現在誕生日石には選ばれていません。
💎参考記事
輝安鉱(スティブナイト)の主な産地
現在は
・中国🇨🇳
・アメリカ🇺🇸
・カナダ🇨🇦
・ルーマニア🇷🇴
などが主な産地です
市之川鉱山は閉山してしまいましたが、山口県の鹿野鉱山や愛知県の津具鉱山などでは今も産出されています。