(73)『日本神話タロット』鏡ノ肆「ニニギとコノハナサクヤの結納」
鏡ノ肆(カップ4)「ニニギとコノハナサクヤヒメの結納」

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これまでのあらすじ

地上を治めるために降臨した「ニニギ(邇邇芸)」は「コノハナサクヤヒメ(木花之佐久夜比売)」と出会い、お互いに一目ぼれをしました。

コノハナサクヤヒメ」の父親である「オオヤマツミ(大山津見)」に結婚の許しをもらいに使者を送ると、許してくれたものの、姉「イワナガヒメ(石長比売)」も添えられてきました。

『日本神話タロット』鏡ノ肆
「ニニギとコノハナサクヤの結納」

鏡ノ肆(カップ4)カードの意味

正位置
閉鎖的、安定、スランプ、現状維持

逆位置
変化、展望、予期せぬチャンス

『日本神話タロット 極参』
鏡ノ肆
「結納」解説文(写し)

この記事に出てくる神々の系譜

オオヤマツミは娘二人を嫁がせると言いますが、ニニギイワナガヒメはいらないと頑なに拒みました。

しかし二人の娘を差し出すには理由がありました。

コノハナサクヤと結婚すれば桜が咲くように栄華を極めますが、散るのも早いため短命になってしまうために、イワナガヒメも共に連れ添わせようとしたのです。

参考記事

「古事記」におけるこの場面

イワナガヒメ」は醜かったので「ニニギ」は恐れをなして送りかえし、妹の「コノハナサクヤヒメ」だけを止めて一夜の契りを交わしました。

一方「オオヤマツミ」は「イワナガヒメ」が送り返されたことを恥入り、こう言いました。

オオヤマツミ
私が娘二人を差し上げたのはゆえあってのことです。
まず「イワナガヒメ」を差し上げたのは天津神の御子の命が、雪が降ろうが風が吹こうが巌のようにいつまでも揺るがないようにと考えたからです。
コノハナサクヤヒメ」を差し上げたのは木の花が華やかに咲くように栄えてください、とウケイをしながらなのです。
しかし「イワナガヒメ」は返されてしまいました。
だから天津神の御子の命は、木の花のように儚いものとなることでしょう。

このため、今に至るまで、天皇の命は長久ではないのです。

ーオオヤマツミの和歌ー

故(カレ)天つ神の御子の御壽(ミイノチ)は
木の花のあまひのみまさむ

意味:あなたの寿命は木の花のように儚い物となるでしょう。

「イワナガヒメ」を「日本神話」に登場させた理由

わざわざ「イワナガヒメ」を登場させたのには理由があります。

(神武天皇のひいお爺さんである「ニニギ」を最低だと言いたいのではないでしょう。)

神には基本的に寿命はありません。

イザナミ」や「オオゲツヒメ」などのように時折「」を迎える神がいるので「神=不死」ではないようですが、病気になったり寿命を迎えたりすることは考えにくいです。

しかし地上に降臨し、やがて人の世に移行する以上、命に限りが生じてしまいます。

天孫降臨から神武天皇誕生までは神の時代から天皇の時代への移行期です。

その間に、永遠の命(神)から、限りある命(天皇)へと変質する存在として、寿命の起源神話を作る必要がありました。

そこで登場させたのが「イワナガヒメ」であり、拒絶されるために容姿が醜いことにする必要があったのでしょう。

はるさん的補足
バナナ型神話

バナナ型神話とは、生命は永遠のでないことの理由づけとして世界各地にある神話です。

アダムとイブが木の実を食べて楽園を追放になった話が有名ですね。

参考記事

日本神話は「天津神の子孫である天皇も死を避けられないのだ」ということを「ニニギ」が面食いだったせいにしました。

美と死(儚さ)が隣合わせであるという日本の「バナナ型神話」には「もののあはれ」の原点が宿っていると言われています。

古事記の他の記事

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上巻(天地開闢から海幸彦山幸彦)

中巻(神武天皇から応神天皇)

下巻(仁徳天皇から推古天皇)

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コメント一覧
  1. よしちゃん より:

    バナナ型神話と言うのですか!知らんかったです本当にはるさんのブログは勉強になります。
    美しさについて言うならば、「美しさ」は「儚く」て「限り」があるという、惜しいですが、それこそが「美しさをより際立たせる」ように思います。
    人間の命には限りがある、それもまた、「だがそれが良い」なのかもしれません。
    はるさんのニニギがめちゃ幼い説も、ありそうだなと。ちっちゃい子って割と思ったこと言っちゃう(銭湯で刺青が入った人を指差して「おとーさん、あの人の背中、絵が書いてあるよー」とか言ってしまってお父さんや周りの大人が凍りつくみたいな話)それぐらいにまだまだ本当に小さかったのかもしれませんね。

    ところでタロットなのですが、カップ(聖杯)の4は、4が安定を表して、水(愛情)がなみなみと入ったカップが安定している、「安定した愛情」の意味が強いですが、水は安定してしまって流れないと澱んだり腐ったりしてしまうという・・・
    「愛情たっぷり安定していて何の不自由もないんだけど、なんだか飽き飽き、うんざり!これでいいのかしら」(それでカップの5、カップがひっくり返っちゃうやつに繋がるわけですね)な感じになってしまう。
    カードでのニニギとコノハナサクヤヒメご夫妻は「愛情は満たされたのだけれど・・・」(シンプルにめでたしめでたし!行くかは?!)といった意味あいも、こもっていたりするのでしょうか。

    • harusan0112 より:

      ありがとうございます
      日本の場合はバナナではなく花というのがいいですね!
      コノハナサクヤヒメも決して弱々しくはありません。
      コノハナサクヤヒメはイザナギとイザナミの孫ですが国津神の娘。
      イザナミが毎日1000人殺すと仰ったので寿命があります。
      ニニギは日本書紀の一書によっては降臨時は赤ちゃんでした。
      アマテラスは息子のオシホミミに行かせようとしたのに、生まれたばかりのニニギを行かせることになったのですから、幼稚性はやむを得ません。

      だからこそ時々思うんですが、随行したオモイカネとかは、何をやってたんだろう。ブレインとして来たんじゃないんかい?

      コノハナサクヤヒメとニニギですが、まあ、一晩だけは盛り上がったのでしょう。
      しかしさすがにコノハナサクヤヒメはニニギに愛想を尽かしますよね。お姉さんには酷いこと言うし、自分にも最低なことを、、、泣
      一目で恋に落ちたという設定ですが、愛が冷めるのも早いでしょう。

  2. 才色健躾 より:

    この度は神の生命について知り得ました。
    寿命起源神話にも納得です。
    天皇は神であるなら何故、寿命はあるのか…よく分かりました。
    バナナ型神話。とても良い補足でした。

    • harusan0112 より:

      ありがとうございます♪
      ニニギはまだ幼いし、突然降臨させられた孫ですから、仕方ないと皆さん納得する理由づけを考えた方がいるのでしょうね。

  3. さゆ より:

    永遠の命のある神から寿命を持つ人間に変身する為、バナナ神話は作られたのですね。
    はるさんが載せてくれたサイトを見ると、世界各地にあって、派生型もありますね。
    その中で、創世記のアダムとイブが木の実を食べたときは、間違った選択肢を選ぶと死ぬことが予め明示され、その選択を禁じています。
    しかし、日本のバナナ神話では、外見と結び付いていて、知らずに選択してしまいます。
    これは、ちょっと公明正大でないので、ニニギに同情します。と言ってもスラウェシ島のトラジャ族のお話も同じですけど。

    ニニギの選択から、長い年月を経たので、長命を選ばなかった効果がどんどん薄れて、これからは、天皇家はどんどん長命になるといいですよね。

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